読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

プログラマー兼主婦の雑記

築40年の戸建てに家族4人で住んでいます。

『不死細胞ヒーラ - ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生』は小説のようなノンフィクション

読んだきっかけ

少し前に、癌つながりで2冊の本を読んでいました。

「余命3カ月」のウソ (ベスト新書)

「余命3カ月」のウソ (ベスト新書)

本屋で見かけて手にしたもので、「癌は治療しないほうが余命が長くなる」という主張をする先生の本です。

打ちのめされるようなすごい本 (文春文庫)

打ちのめされるようなすごい本 (文春文庫)

「ああ、私が10人いれば、すべての療法を試してみるのに」という言葉が目に留まって購入しました。ロシア語通訳者であり作家でもある女性の書評日記です。

こういった本を読みながら、癌や生死について考えていたときにふと、「自分の精神以外の部分が永遠に生き続けること」について思いつきました。自分の死後に細胞だけが生き残っていたら、それは自分であって自分でないのか…。哲学は苦手ですが、そんなことをふと思ったのです。

  • 人間の細胞だけが生き続けることは実際ありえるのか
  • もし細胞が生き続けていたらどういうふうに扱われるのか

これを解決してくれる本を探して見つけたのがこの本でした。

不死細胞ヒーラ  ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生

不死細胞ヒーラ ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生

読んでよかったです。新しい世界を見ることができました。

本書の概要

この本では、章ごとに以下のトピックのどれかが登場し少しずつ全容が明らかになっていきます。章ごとに年代や主要人物が変わるので、まるで小説のようです。

  • 著者がこの本を書くまでの長期にわたる取材記録
  • 不死細胞ヒーラの持ち主であるヘンリエッタの人生
  • ヘンリエッタの時代の医療、科学、法律
  • ヒーラ細胞の功績や影響
  • ヘンリエッタの子孫(特に著者と深く交流した次女のデボラ)
  • 現在の医療、科学、法律

翻訳書ですが、不自然な訳もなく、堅苦しくなく、読みやすい本でした。高学歴ではないヘンリエッタの家族のためにも、原著自体が読みやすいように書かれているのかもしれません。

著者はこの本を書くために人生の大半を費やしたそうですが、よくこんなに調べ上げて、よく体系立てた文書に落とし込めたものだと感服します。読み終わったあと、『白夜行 (集英社文庫)』の読後のような、ふわふわとどこかへトリップした感じを抱きました。

ヘンリエッタやデボラのヒューマンドラマとして読んでもいいし、黒人に対する差別の歴史として読んでもいいし、科学や医療の発展の歴史として読んでもいいと思います。

「科学・医療の進歩 vs 人権・プライバシー・倫理」に関する双方向の意見は考えさせられます。

読書前&読書中に浮かんだ疑問と解答

Q. 人間の細胞だけが生き続けることは実際ありえるのか

ヘンリエッタ・ラックスという黒人女性の癌細胞が生き続けている。

(ということをあらすじ及び序章で知りましたが、この本で尚も「癌」について触れることになるとは思っていなかったので、少し衝撃を受けました。)

Q. もし細胞が生き続けていたらどういうふうに扱われるのか

体外で生き続ける細胞というのがそれ(1950年頃)までなかったため、ヘンリエッタの不死細胞(ヒーラ)はとても貴重な大発見だった。増殖し続ける彼女の細胞は世界中の研究者に分配され、さまざまな研究に役立ってきた。現在ヒーラ細胞は重さ5千万トン(推定)を超え、大半の人がその恩恵を受けている(ポリオワクチンとか)。

家族にとっては母親がまだ生きているような不思議な感覚がある。遺体を解剖されるのを嫌がる気持ちに似ていると感じた。研究者は細胞の持ち主のイニシャルをとって「HeLa(ヒーラ)」と呼んでいるので、持ち主の人生や人格まで考えを及ばす人は少ないようだ。

Q. ヒーラ以外に不死細胞はあるのか

同じく持ち主のイニシャルをとった「A.Fi」「D-I Re」などと呼ばれる細胞が後年発見されたが、ヒーラのように大量増殖していない。

正常な細胞はあらかじめ決まった回数分裂すると死ぬようにプログラムされている(ヘイフリック限界)。ヘンリエッタの癌細胞(ヒーラ)にはその回数制限がないため死なない。現在の技術では、正常な細胞をある特定のウイルスや化学物質にさらせば人工で不死細胞を作り出すことができる。しかしヘンリエッタの細胞のように自力で不死化する細胞はほとんどない。

Q. 売買される細胞の印税のようなものが持ち主や家族に支払われるのか

一切支払われない。さまざまな議論があった(今もある)が、法的には持ち主を離れた細胞についてとやかくいう権利はない。

奴隷時代の名残りがあったせいで、当時黒人は病院にかかりづらかった。無料で診てもらえる福祉サービスもあったが、患者に内緒で人体実験をされることも多かった。そんな研究で得た収益の還元なんてあるはずもなかった。

Q. ヒーラ細胞は癌細胞なので、バイオテロができるのではないか

ネズミにヒーラ細胞を注射した実験によると、ネズミは癌を発症する可能性があるようだ。人への感染の可能性は不明。

白血病の女性十数名に対し、内緒でヒーラ細胞を注射した研究者がいた。当時は患者である被験者に同意を取らない実験が横行していた。癌を発症した患者がいたが、もともと癌を持っていたようだ。

健康体への実験では刑務所で被験者が募集されることが多かった。罪滅ぼしのために受けたりするようだ。健康な被験者は癌を発症しなかった。