こちらの本を読みました。
- 作者: 鈴木孝夫
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1990/01/22
- メディア: 新書
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先日読んだ『ことばと思考 (岩波新書)』にて、この本の内容が何度も引用されていたので原典にあたりました。
著者は大正生まれの言語学者。大学教授も兼任している方です。著作多数。
タイトルから日本語と外国語の違いを淡々と書いてあるだけかと思っていましたが、後半に行くにつれて内容が深みを増して面白くなりました。読了後に調べたところ、著者の主張は日本語の世界地位向上とのこと。最近の日本国内では小学校にまで英語教育が降りてきて英語崇拝ムードが高まっていますが、その反動で日本語をおろそかにしてはいけないな、と、この本を読んで日本語の重要性を再確認しました。
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第1章 ことばで世界をどう捉えるか p1
わかりやすく、雑談ネタになりそうな話から始まっています。『ことばと思考』で引用された茶色のタクシー(orange taxi)や、 リンゴのような(日本語:赤い/仏語:丸い)ほっぺ、黄色い太陽に白い月など。
日本ではいいイメージの太陽ですが、暑さに苦しめられている地域では太陽は悪しきものだそう。商品パッケージに太陽の絵が描いてあるだけで商品が売れなくなった例が挙げられていました。
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第2章 虹は七色か p59
虹の色が国によって異なることは知っていましたが、まさか虹だけで50ページ近くも書けるほど深く調査しているとは驚き桃の木山椒の木。
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第3章 日本人はイギリスを理解しているか p105
外国では人の往来により外国語を学ぶため、話せても書けない人が少なくない。
日本では書物で外国語を学ぶため、書けても話せない人が少なくない。
(意訳)
英語を知っていても、英国人と関わり合いがないと彼らについてほとんど知らないことになってしまうので、英国人の考え方や習性が紹介されています。
これに関連して、以前から読みたいと思っている本があります。
- 作者: 臼井俊雄
- 出版社/メーカー: ベレ出版
- 発売日: 2013/12/17
- メディア: 単行本
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日本語で「そんなの裸の王様だよね」と言った時に、日本語が理解できても「裸の王様」が何(の比喩)かが分からないとセリフの意図を理解できないのと同様に、英語で前提となっている宗教や歴史を学ぶ必要性をひしひしと感じています。
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第4章 漢字の知られざる働き(1) p127
この章から日本語の独特性がふんだんに解説されていて興味深く読みました。
日本語は難しい言葉でも漢字の組み合わせから意味を推察できるが、音を聞いただけではそれが難しい。その理由は、その音はたいていのばあい中国語由来の音読みで、日常使う訓読みの言葉とは違うから。文字にした途端に、音読みの単なる音と訓読みの意味が結びつき理解できる。(意訳)
たとえば「ソウショクセイ」と「蜂食性」。後者は「蜂」を「食」べる「性」質だとわかる。英語のばあい、「apivorous」はラテン語の「apis(蜂)」と「vorus(食べる性質の)」の組み合わせなので、普通の人は意味が全く想像できない。
これは本書に添付されている、英単語の由来となるラテン語の一覧(一部)です。わーお。
日本人は「貧血」「白血球」「鼻炎」「乳酸菌」といった言葉が普通の会話で出てきますが、それらの単語を知らない英語人はどうやって会話をしているのでしょうね。私は以前海外で膀胱炎にかかったことがあり、医療関係ではない現地の人に「cystitis(膀胱炎)だった」と言いましたが、伝わりませんでした。「bladder(膀胱)が悪くなった。お腹の下の。おしっこ関係のところ」という表現で伝わった(のか?)と記憶しています。難儀だ。
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そんな風に役立つ日本語の音訓読みの面白さを英語人に紹介するときに使える例がある。これらの言葉のラテン語読みが日本語の音読みにあたり、英語読み(意味による当て字)が訓読みにあたる。(意訳)
なるほど。目から鱗が落ちました。
略語 | 英語読み |
---|---|
e.g. | for example |
i.e. | that is |
etc. | and so on |
vs | against |
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第5章 漢字の知られざる働き(2) p165
日本語は抽象的で、英語は具体的である。日本語では「とる」で済まされる動作が山ほどある。漢字に変換すれば「取る」「撮る」「摂る」「採る」「獲る」と具体化されるが、英語の場合はもっと細かい。(意訳)
これは本書に添付されている対応表の一部です。
日本語で会話する人は聞いた言葉の漢字を頭の中でイメージしているため、漢字表記を知らないと会話が理解できない。これが他言語に比べて文盲が少ない一因となっているはず。(意訳)
この考えには納得しました。日本ではほとんどの人が字を書ける理由に教育水準の高さがあげられることが多いですが、言語の特徴にも一因がある可能性があるんですね。
情報源は別ですが、日本は選挙を筆記で行うとても珍しい国なんだそうです。多くの国はチェックボックスやマークシート。なぜなら文字を書けない人がいるからです。さらに文字を読めない人のために、テーマカラーと紋章のようなものも描かれます。これを初めて知ったときはカルチャーショックを受けました。
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関連して読みたい本
- 作者: 鈴木孝夫
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1973/05/21
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著者の本で一番有名で評価が高いらしい。
- 作者: 鈴木孝夫
- 出版社/メーカー: 新潮社
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こちらも著者の本。
日本語は国際語になりうるか―対外言語戦略論 (講談社学術文庫)
- 作者: 鈴木孝夫
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1995/07
- メディア: 文庫
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著者による日本語の国外地位を高めるための本。日本語ラブ。